
伊豆諸島のひとつ、神津島(こうづしま)は、東京都心の南西178キロメートルに位置しています。
神話によると、事代主命(ことしろぬし)の本拠であった伊豆・白浜と最も近い神津島が、「神々の集う島」として選ばれたとか。
今も数多くの伝説が残る神津島では古くから漁業が栄え、それによって島の生活文化が形成されてきました。
島の鎮守・物忌奈命神社(ものいみなのみことじんじゃ)では、その年の豊漁を祈る"鰹釣り神事"が褪せることなく今も活気とともに受け継がれています。
しかし、島の生活を育んできた神津島の漁業は今、確かな危機感のなかにいます。
沿岸漁業に突きつけられる現実

グローバル化が進む中、日本の水産業全体が厳しい状況におかれています。
特に四季折々の多彩な魚で旬を楽しませてくれる沿岸漁業は、その多様性がゆえに、現在の規格追求型の流通体制を不得手としている現状があります。
我が家の食卓をみたときも、この徹底した効率体制と情報管理を武器に商品を陳列する量販式サービスから十分な恩恵を受けながらも、
どこか寂しさを感じずにはいられない自分がいます。
神津島の漁業においても、食に対する価値観や流通の変化を前に、新たな選択を迫られているのです。
漁師たちの新たな挑戦

「先祖から伝えられてきた神津島の漁業を未来へ引き継ぐため、自らの考え方を変えなければならない。」こう語るのが神津島漁協の組合長。
通常、獲れた魚は築地に代表される消費地市場へ出荷されます。
市場は、多様な品目である鮮魚を広く流通させるための合理的なシステムですが、一方で相場によって価格が決まるという側面があります。
言い換えると、漁師の収入が不安定になってしまいます。
さらに、自分の釣った魚を美味しく食べる方法を知っている漁師ではあっても、市場を通すと自分のとった魚の評判を聞く機会がないに等しい。
これでは漁師の生産意欲をよい状態で維持することが難しくなります。
この現状を打開すべく、神津島の漁師たちは消費地の飲食店との直接取引に乗り出しました。
漁師自らが、お店からの注文を受けるのです。
さらに、今年の9月からは漁協のホームページを使って、水揚げ情報やお届け先である飲食店の情報を発信する取組みを始めました。
飲食店とともに神津島産をPRし、その情報に触れた一般の方がお店へ足を運び、神津島の魚に舌鼓をうつ。
これは神津島という産地が、飲食店という食の仲介者を得て、一般消費者と触れる機会をもつ、というこれまでにない発想です。
この取組みが広がり、注目が集まれば、次世代の漁師も神津島に誇りをもって漁を続けていくことができる、
そんな構想を、神津島の漁師の皆さんとともに私たちは抱いています。
鰹釣り神事の灯火を消さないために

取組みが進んでいく過程は、火起こしのようだと私は思います。
未来を開拓する組合長らが種火となり、神津島には火がつきました。
この思いに共感する飲食店が火の燃え移る薪となります。
そして、少しずつ広がる神津島のファンがその火に空気を送り続けます。
結果、その火はやがては大きな炎となり、島を温かく照らす灯火となる。
火が消えそうなとき、火が暴走しそうなとき、そっと手をかざせる存在になる、これが私たちの役割です。
神津島漁協の挑戦に、是非ご注目ください。
http://jf-kouzushima.jp/
(田中 耕輔)

![[地元だから]第1回: 神が集いし島、](../../../img/column/mainImage_column.png)
