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持続研通信 No.72 藤袴号

鳴く虫の女王「カンタン」はクズの葉の周りで見かけることが多い


みなさま、こんにちは。アミタ持続研の島津です。
先月は不安定なお天気が続きましたね。秋晴れの空が待ち遠しい今日この頃です。
さて、今回の持続研通信・藤袴号は、宮城県加美町での取り組みや南三陸からのご報告、アミタグループからのお知らせなどをお届けします。そして最後に秋らしい雑記を一本お届けします。
どうぞご一読ください。

 「生ゴミからエネルギーを作ろう!in加美町」共催



8月に宮城県加美町で開催された小学生向け実験イベント「生ゴミからエネルギーを作ろう!in加美町(主催:加美町)」の企画主旨に賛同し、イベントの開催に参画しました。
アミタ持続研では今年2月に同町のバイオマス産業都市構想策定支援業務を受託しております。本イベントは同町内へのバイオガスエネルギーの普及啓発、防災観点での価値伝達などを目的として開催されました。
本イベントの一環として、8月下旬にアミタ東京オフィスで実施した「子供参観日」でも、子供たちがペットボトルに生ごみとメタン菌を詰めてメタン発酵の準備をしました。
子供たちは身近な生ごみからエネルギーが作れることを知って、環境問題に興味を持ってくれたようです。

 南三陸BIOにて加美町民との意見交換会を実施



8月に宮城県加美町の町民の方や行政の関係者等が南三陸BIOを視察し、南三陸町の農家の方、役場の方等、地元関係者の方々と意見交換会を実施しました。
南三陸での取り組みを聞いた加美町の方から「この事業を進めるには農協、婦人会、行政等の組織に任せっきりにするのではなく、自分事として進めたい」という発言も出ました。
バイオマス産業都市構想を国に認定申請中で、今後バイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまちづくりを推進していく加美町の関係者の方々にとって、大変有意義な時間になったようです。会の最後には「バイオマスのシステムを学びにきたつもりだったのに、人のネットワークの作り方も学べて良かった。」と、感謝の言葉で締めくくられました。
現在、加美町ではメタン発酵消化液(液肥)散布普及・実証試験を進めているところです。今後の展開にご注目ください。
加美町のバイオマス産業都市構想策定支援業務を受託

 南三陸・地元高校の文化祭でワークショップ



宮城県志津川高等学校の自然科学部の生徒さんたちが、9月の文化祭で「生ゴミからエネルギーを作ろう」と題したペットボトルバイオのワークショップを開催し、現地スタッフもお手伝いに行って参りました。
教室を訪れた一般の方や近所の子供たちが説明を受けながら、実際に野菜くずをミキサーで細かく粉砕し、種菌(メタン発酵消化液)と混ぜ、メタン発酵の仕込みをしました。あらかじめ用意されたバイオガスで火を点け、フライパンでベーコンを焼いて食べていただきましたが、生ごみから発生したガスで火が点いたときは歓声が起こり、「ごみの分別、ちゃんとやらなくちゃ」という声も聞かれました。
南三陸BIOが開所してもうすぐ1年が経とうとしていますが、この資源循環の取り組みに地元の方が自分事として関わろうとしていて、まさに循環型社会への時流が感じられます。
今後、南三陸のような持続可能な地域づくりを目指す自治体が、国内外に広がっていくことを期待します。
南三陸BIOの事例紹介

 今年もトウキリーフ収穫しました



持続研では2012年より南三陸で薬草・トウキ(当帰)を地元の農家さんに栽培委託しています。今年も葉の収穫を無事に終えることができました。
今回はいつもの関係者・ボランティアの方々の他に、地元でロールケーキを作っているパティシエの方も駆けつけてくださいました。
試作されたトウキロールケーキを数種類持ってこられ、どれが良いか皆で試食会もしました。また、トウキでスムージーもやってみたいということになり、さっそく収穫したばかりの生葉を持ち帰っていただきました。新たなトウキ商品誕生となるか?楽しみですね!
トウキの生産と葉・根の原料販売について

 南三陸BIOオペレーター募集のお知らせ


南三陸町でバイオガス施設「南三陸BIO」のオペレーター業務や地域住民の方との関係作りを担っていただける方を募集しています。
町の資源循環を担う中核施設で、私たちと共に町の未来づくりに携わりませんか?
南三陸BIOオペレーター募集のお知らせ

 アミタグループからのお知らせ


< 会長熊野のそっ啄同時 「忙しい暇人」 >
今年7月にアメリカでスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の配信が始まり、世界に社会現象を引き起こしています。これは、時代によるどのようなサインなのでしょうか?

< アミタ、マレーシアに本格進出 >
アミタは2017年内の工場進出を目指して、現地大手コングロマリットであるBERJAYAグループとのジョイントベンチャーを設立しました。

< 浜松市の学校施設でのFSC(R)プロジェクト認証を審査 >
アミタは、9月8日に「浜松市中部中学校区小中一貫校」(2017年4月開校予定)の建築物に係わるFSC(R)プロジェクト認証の審査を行いました。学校施設に対する認証審査は日本初です。

< 鳥取県の道の駅でのFSC(R)プロジェクト認証を審査 >
アミタは日本初となる道の駅のFSC(R)プロジェクト認証を審査し、8月8日に認証が発行されました。アミタはFSC(R)プロジェクト認証で世界の約1割、国内の約7割を審査しています。

< 環境認証審査サービス 審査員募集のお知らせ >
アミタでは、第三者認証制度の信頼性維持向上のため、当社審査方針にご賛同いただける、高いスキルと意欲を有する審査員を広く募集しております。

 スタッフ雑記「濡れ衣の女王(カンタン)」



 石川県加賀市で共生農業の推進を進めている柴山潟周辺の水田で、いよいよ今年の収穫が始まりました。もちろん“伝説の米”農林21号も初出荷に向けて収穫され、地元の各メディアでも大きく報道して頂いています。

“伝説の米”農林21号の初収穫を迎えた柴山潟の農家→


 その柴山潟の傍らにあるのが篠原古戦場。寿永2年(1183年)、牛の角に松明をかざした奇襲攻撃で有名な倶利伽羅峠の戦いで敗走した平家軍と木曽義仲の軍が戦った源平の合戦場跡です。

 押し寄せる源氏軍に逃げまどう平家軍。その中で一人踏みとどまって戦ったのが平家の老将、斎藤実盛です。かつて実盛は幼少時代の義仲の命を救った恩人ですが、名乗らずに闘い、はかなく討ち取られてしまいます。命の恩人を討ち取ってしまった義仲の悲嘆を、後に芭蕉が「おくの細道」のラストで「むざんやな 甲(かぶと)の下のきりぎりす」と詠んでいます。

 この「きりぎりす」とは「チョンギース」と鳴く現代のキリギリスではなく、江戸時代ではコオロギ類の総称であったことが知られています。芭蕉が句を詠んだ当時の9月中旬に柴山潟周辺で鳴いているのはスズムシ、マツムシのほか、エンマコオロギやカンタンなどの声が聞かれます。


 とくにカンタンは「邯鄲(かんたん)の夢枕」の物語から江戸時代末期に付けられた名とされ、その幻想的な鳴き声から「鳴く虫の女王」とも呼ばれています。まさに邯鄲の夢枕の如き人の世のはかなさを読んだ芭蕉の句の「きりぎりす」も、きっとカンタンの声だったのかもしれません。

←お腹の真ん中の腹板が黒いのがカンタンの特徴です。黒くないのは近縁の別種である可能性が高いです。


 …などと夢想していたところ、なんと環境省の外来種リストにカンタンが入れられていることが分りました。外来生物であれば保全の対象にもならず、地域の自然資源にもなりえません。いったいなぜなのでしょう。調べてみると、「紫式部の源氏物語や清少納言の枕草子に名前が出てこないのに、江戸時代末期になり突然“カンタンギス”の名前で出てくるから、ひょっとすると外来種なのかも」といった博物誌の文献が根拠とのことのようです。

 えぇ? それだけの理由? だって気候変動があるじゃないですか。紫式部の平安時代は気候が温暖で海面が高くなる「平安海進」があった時代。対して江戸時代後期は小氷河期で地球規模の寒冷化が進んでいた時代です。とくに江戸時代末期は非常に寒冷化が進み、飢饉の多発で江戸幕府崩壊の遠因になったとも言われています。


 一方でカンタンは学名を付けられた模式標本の産地が札幌であることなどから、北方系の昆虫であることが知られています。宮城県の南三陸町で秋に主に鳴いているのはカンタンですし、北海道で「秋の虫」といえばカンタンを指し、旭川市の「市民の虫」に選定されているほどです。

こちらはメスのカンタン。→
「鳴く虫の女王」と呼ばれますが、鳴くのはオスのカンタンだけです。


気候が温暖だった平安時代のカンタンは北国や標高の高い山の中にいたために宮廷にいた紫式部は知らず、寒冷化した江戸時代末期になり平野部にも生息域を広げて一般に知られるようになった、と推論することもできます。

 学会の中にも「カンタンは外来種ではない」と主張する研究者がいることから関係筋に問い合わせてみると、環境省が外来種リストにカンタンを入れた際の出典資料を作成した担当研究者も後に判断を変更され、現在は「カンタンを外来種として扱うべきではない」と認識していることが分かりました。カンタン外来種説は、女王様からすれば「とんでもない濡れ衣」だったわけです。

 でも、もしこのまま地球温暖化が進めば、北方系のカンタンはやがてまた平野部から姿を消し、身近な存在ではなくなってしまうかもしれません。いま、加賀市や南三陸町などで進めている循環型農業の振興は、温暖化を抑える低炭素型社会の実現にもつながります。

 ルルルルルル…というその幻想的な声を田んぼの脇の草むらから聞くと、多少なりとも女王様のお役に立てる地域づくりに関わっていることを、ちょっと誇らしく思ったりするのでした。


(本多)