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丁寧が品質になるおもてなしの宿へ

資源循環への基盤作り南三陸南三陸BIO

民宿・下道荘 菅原 由輝さん、さやかさん夫妻

共に30代で経営を引き継いだ菅原由輝さん、さやかさん夫妻も、昨年秋に役場担当者から生ごみの分別回収への協力を打診され、従業員全員で分別方法の説明を受けてから取り組みに参画した。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。)


「今はもう、分けるのが当たり前ですね」

由輝さんは分別を実施してみての感想を次のように語る。

由輝さん:「客が少人数の時ならいいけど、団体客になると、どうかなあ、と思ったんですけどね。
まあ一気にじゃなくて、徐々に慣れながらで始めてみました。最初は、あれ、これどっちだっけ? と迷ったりもしましたけど、今はもう、分けるのが当たり前ですね。団体のお客さんの残りものも全部、分別していますよ。」

現在は回収用の蓋付きバケツを7個購入し、日ごとにバケツを替えながら週に1~2度のペースでBIOへ持ち込んでいる。これなら蓋を開けた際に、前日以前の生ごみの臭気を気にすることもない。規模の大きな民宿ならではの工夫だろう。

分別回収を始める以前に使っていた業務用のポリバケツは蓋付きであるものの、密封構造ではないので夏場はウジが湧くことも多かったという。これに対して分別生ごみの回収用バケツは蓋を軽く回せば密封されるので、臭いもウジの発生もなく、衛生的になったそうだ。飲食を提供する店舗にとって、衛生面の確保は死活問題にもなりうる。その点が大きく改善されただけでも分別回収のメリットは十分にあるだろう。

一方で、生ごみを受け入れる側のBIOでは、事業者が持ち込んだ生ごみの中で見つかった「NGなもの」のリストを作成し、次回の持ち込み時に共有している。

由輝さん:「前回はこんなのが入っていたよ、っていうリストを見ると、ツブ(貝)の殻とか火種のアルミとか、入れたつもりじゃないのが入っていたりしましたね。逆に良いと思っていてもNGだったのがタマネギの皮、あとワカメの茎の芯の硬いところとかも。なかなか判別が難しいな、とも思ったんですが、要は人が食べられないものはダメってことです。それが判ると簡単ですね。」

業務面でのメリットは、やはり水分が抜けてごみの重量が軽くなることだという。仕分け時に用いる分別バケツは二重構造なので、生ごみの水分を切れることが功を奏している。

由輝さん:「以前はビールの飲み残しとか、鍋の時期だと残り汁とかも全部、燃えるごみに混ぜていたんですよ。その水分を切るようになったから、生ごみも、燃やすごみも軽くなりました。ごみ全体の重量が軽くなったから、その分、ごみ処理費用も安くなっていますね。分別前はクリーンセンターに持ち込む可燃ごみ( 気仙沼市へ運搬後に焼却処分される)の処理費が週一で1,200円から1,500円かかっていましたけど、今は600円から900円ぐらいです。(※1)」

衛生的で処理費用も安くなる生ごみ分別のメリットは、民宿経営者にも十分に認識されている様子だった。

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ところで、事業上のメリットだけでなく、分別回収に取り組むことで「森 里 海 ひと いのちめぐるまち 南三陸」という町の未来像の担い手としての自覚も得られるのだろうか。例えば液肥を使って野菜や花を育てるなど、何らかの形での循環型資源の利活用に関わる営みがあると、より一層参画の実感が湧いてくるようにも思える。


めぐりん提灯の元で新たな抱負を語る下道荘主人の菅原由輝さん。

(写真:めぐりん提灯の元で新たな抱負を語る下道荘主人の菅原由輝さん。)

さやかさん:「私の父は入谷の畑で液肥を使ってますよ。まくと土が良くなるって聞いたから」

実家はホタテやワカメの養殖業を営んでいたが、津波で漁具や家屋を失ったため、海の仕事を退いて入谷に家を建て、小さな自家菜園を作っているそうだ。BIOの敷地内に誰でも自由に液肥を持ち帰れるタンクが設置してあるので、そこから容器で運んでいるという。すると由輝さんがひらめいたように語った。

由輝さん:「そうか。うちでお客さんに出している野菜や米も、親父が田畑で作ったものを使っているんだけど、…あの液肥って、BIOに申し込めば散布※2してもらえるんですよね。」

農地( 農家の生産圃場)での液肥利用量は数トン規模になるため、農協やBIOの事務局に申請すれば散布車での散布サービスがなされるシステムになっている。液肥が散布された後にトラクターで土を耕起すれば施肥作業の完了だ。

由輝さん:「生ごみ分別から生まれた液肥で育てた米や野菜をお客さんに出すことができたら、海から獲った魚とかが、まためぐって食卓にやってくるわけだし…、うん、面白いな。」

「いのちめぐるまち」の担い手として、循環型社会を目指す地域のストーリーを軸とする、新たなサービスイメージが湧いてきたようだ。

翌日、さっそく由輝さんはBIO事務局に液肥の散布依頼を申請し、間もなく田植えを迎える自家製米の田んぼに散布車が向かうこととなった。さらに由輝さんは、ワカメ養殖を営む漁師として液肥を利用するアイデアも膨らませている。

由輝さん:「ワカメの養殖棚周辺の海に液肥を施せば生長を促せるし、海の栄養不足で起きる磯焼け(※3)も防ぐことになると思うんですよ。そんな実験もぜひやってみたいですね。」

漁師が海から故郷・南三陸を眺めれば、その景色からの恵みで自分と家族が育まれていることを自ずと実感できる。それは、持続可能な生態系の一員であることの自覚と共に、この上ない幸福感と安心をもたらすものだろう。新鮮な海の魚介類と共に、資源循環の営みからの恵みで利用者をもてなすことは、その幸福と安心のストーリーを、さらに丁寧な品質で供することになる。「いのちめぐらす事業者」が、未来に向けて新たなステージアップを目指そうとしている。

(※1)事業系生ごみの回収は運搬業者に委託すれば有料ですが、南三陸BIOに生ごみを持参すれば処理費を含め費用は一切かかりません。事業系生ごみの南三陸BIO受け入れ処理は当初有償でしたが、2017年6月から無償化されました。

(※2)散布車による液肥散布サービスは2018年度までは補助制度により無償で行われますが、それ以降も化学肥料を購入する場合の半額程度の面積当り費用で散布サービスが受けられる予定です。

(※3)「磯焼け」とは海藻類が死滅して磯の岩盤がむき出しになり、海藻を餌とするアワビやウニなどの重要水産物が減少する現象です。主な要因の一つに栄養塩類の不足が挙げられています。磯焼け対策として、窒素成分などを施肥し、栄養塩類を補給することが有望視されています。


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動画 いのちめぐる~分別のこと~



プロフィール


菅原由輝さん、さやかさん夫妻(真ん中は娘さん)
民宿・下道荘


南三陸町の中心域である志津川地区の「下道荘」は、新鮮な魚介類と自家製の野菜と米でもてなす食事が自慢の漁師民宿だ。震災の津波で家屋が流失し、家族全員での避難生活を余儀なくされたが、間もなく海を一望する高台の土地を確保し、震災から一年足らずの翌年2月に営業再開を果たした。部屋数12室・定員52名の設備は民宿の経営規模としては大きなものだ。2016年は年間で11,000人もの宿泊者をもてなしている。


資源循環の基盤づくり


バイオガスプラント 南三陸BIO


南三陸町バイオマス産業都市構想


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