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いのちめぐる田畑の創造主

資源循環への基盤作り南三陸農業南三陸BIO

入谷地区農家 阿部 勝善さん

液肥を散布する事業者が「いのちのバトンリレー」のアンカーだとすると、その液肥で田畑の作物を育てる農家はエンドユーザーであると共に「生命の再生」を担うライフメーカー(創造主)だ。液肥を活用する農家の存在なくして資源循環事業は成り立たないのである。今でこそ散布を希望する農家に対して液肥が不足することもあるほどだが、当初はわずか数名の農家が手を挙げるのみだった。事業の黎明期から率先して液肥を使用している農家の一人、入谷地区の阿部勝善(かつよし)さんを訪ねた。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。)


今は使う農家も増えているから、誰かがやるのをみて安心したんだろうね

4年前の試験導入時は水田やトウモロコシ畑に液肥を用いたが、翌年からはネギ畑にも使用し、その効果を継続的に実証している。

勝善さん:「これ、去年の8月の台風で倒れた液肥のネギ。消毒もしないでそのまま置いておいたら春になって起き上がった。こんなの初めてだよ。」

液肥を用いたネギ畑で勝善さんが感嘆した口調で語った。昨年(2016年)8月に発生した台風10号は宮城県沿岸部に大きな被害をもたらし、南三陸でも強風により多くのネギ畑が被害を受けた。通常、風雨で倒れたネギは傷口から侵入した病原菌(軟腐病)により急速に腐敗してしまう。多くのネギが倒れたまま畑に残されていたが、そのネギが腐りもせずにしっかりと太り、起き上がってきたというのである。試しに抜いてもらったネギは太々とした白い茎から甘い香りを放ち、そのまま生でかじってみたくなるほど見事な出来映えであった。

勝善さん:「普通は(殺菌剤で)消毒するんだけど、してないよ。農薬は虫除けを一回だけ。肥料は基肥(もとごえ: 植付前に施用する肥料)に液肥を使っただけで、追肥( ついひ: 植付後に施用する肥料)は無し。それでも十分育つね。田んぼでは、今年は8.5反歩、ひとめぼれの田んぼに撒いているよ。来年は1ヘクタール、全部に液肥を使うつもりだよ。」


(写真:ネギ畑で出来栄えを誇らしげに語る阿部勝善さん。)

(写真:ネギ畑で出来栄えを誇らしげに語る阿部勝善さん。)

はじめは育ち始めたネギの追肥用に撒いてみたのだが、梅雨の湿気の多い時期だったので過湿環境に弱いネギの葉が黒くなる病気(黒斑病)を誘発してしまうこともあったそうだ。そこで苗の植え付け前の基肥のみに使用するようにしたところ、非常に優れた効果が得られたという。

勝善さん:「あとね、液肥散布車が導入されたのはすごく良かったよね。初めはアミタがトラックに載せたタンクからポンプとホースで撒く重労働の手作業だったけど、あの方法ではどうしても撒きムラが出るんだ。あんまり濃すぎると、稲の品種によってはそこから(窒素過多による)イモチ病が出てしまうこともあった。でも散布車は両側に伸びたシャワーパイプっていうの? あれで均等に撒くからムラがないんだよ。あの散布車のおかげで、液肥を使う場合の品質や信頼性がものすごくよくなったと思うよ。」


当初は〝得体のしれぬ液体〟を農地へ施すことに尻込みする農家が少なくなかった中、元は地域メディアのジャーナリストという経歴の勝善さんは率先して液肥を用いた。試行錯誤と合理的な検証を重ねながら適正な使用方法を確立してくれた功績は大きい。


勝善さん:「最初は、使ったことがないものへの抵抗感があった人もいただろうね。今は使う農家も増えているから、誰かがやるのをみて安心したんだろうね(笑)。」

液肥を使ったネギやトウモロコシは甘みが増すのだそうだ。糖度計で計測して客観的なデータを示せば市場での説得力も高まるはずだという。

勝善さん:「でも、そういう実際の肥料の効果面だけじゃなくてさ、やっぱり『目に見える肥料』を使っていることも安心・安全の材料になるだろうね。なんといっても地域の皆が協力し合って、分別回収した生ごみからできているんだから。」


若者とのコラボで忙しいから、還暦過ぎても歳とる暇がないね

そうした「循環型農産物」としての付加価値化を推進するため、液肥を使った米や野菜に「めぐりんシール」を貼って出荷する取り組みにも参画している。勝善さんらが出荷する「めぐりん米(品種はひとめぼれ)」は直売店の「さんさんマルシェ」でも上々の評判だ。


(写真:キャラクターを活用しためぐりん米)

(写真:キャラクターを活用しためぐりん米)

循環型農産物の環境親和性をさらに高めるため、病害虫防除にも化学農薬をできるだけ使わない新たな農法を取り入れている。例えばホタテの貝殻をパウダー状に加工したものを田畑の作物に散布すると、ネギの赤さび病や稲のイモチ病などにてきめんの防除効果があるそうだ。貝殻を焼成した粉はアルカリ性が強く、除菌効果があることが知られている。これを殺菌剤の代用品とする農法だ。

勝善さん:「こういう取り組みのきっかけにもなった無農薬のササニシキ(※1)もイモチ病になりやすいのが課題だったけど、ホタテ殻のパウダーを使うようにしてからはイモチのイの字も出なくなったね。だからササニシキの栽培仲間はみんなホタテ殻のパウダーを使っているよ。」

ホタテの貝殻パウダーは、処分方法が課題だった水産廃棄物の貝殻の有効利用策として、隣接する石巻市で製造されている。かつて焼却されていた生ごみが液肥資源としての価値を見いだされる中、相乗効果で循環型資源の利活用が拡大した例になるだろう。

勝善さん:「こうやって新しい価値がどんどん生まれてくることで、南三陸が資源循環の町として、地域まるごとでブランド化できればいいな、と思うね。液肥を使った(薬草の)トウキとの関わりで( 海辺の旅館の)ニュー泊﨑荘の洋子さんや宮倫子さんともエライ友達になれたし、入谷では今年からワイン用のブドウの栽培も始まって、他所から移住してきた若者がワインづくりに挑んだりしてるよ。若者とのコラボで忙しいから、還暦過ぎても歳とる暇がないね( 笑)。」

液肥を通じてのつながりは里と海を結び、地域を超え、世代を超えて広がりながら、新たな価値を育んでいる。こうして「地域の価値と関係性の拡大」がなされる際の触媒にもなりうる液肥だが、その可能性を引き出すのは住民の意識変革の成否にかかっているだろう。

バイオマス産業都市構想を主管する農水省の職員が、勝善さんの田畑へ視察に来た際に「どうすれば液肥の利活用が促進されるのか教えてほしい」と乞われたそうだ。他の地域では液肥の活用がなかなか進まないことが課題となっているからだ。液肥を単に「化学肥料の安価な代用品」と捉えていては、農家や地域関係者の意欲向上にはつながりにくいだろう。資源循環から生まれた液肥の利活用システムは、地域の価値と関係性を増幅させるための「住民の意志のネットワーク」なのである。

(※1) アミタ電子書籍「未来をつなぐ人間物語」第3章「宮城のプライド よみがえるササニシキ」参照


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動画 いのちめぐる~分別のこと~



プロフィール


阿部 勝善さん

阿部 勝善さん
入谷地区農家


1951年4月生まれ、南三陸町入谷地区出身。無農薬栽培の米作りに取り組む農家であり、造園業も手掛ける。廃校を宿泊施設兼グリーンツーリズムの活動拠点に再生した「さんさん館」の理事。震災前から入谷地区のグリーンツーリズムの中核を担っている。


資源循環の基盤づくり


バイオガスプラント 南三陸BIO


南三陸町バイオマス産業都市構想


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