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バケツ一杯からここまでのつながりが

資源循環への基盤作り南三陸トウキ南三陸BIO

ニュー泊埼荘(とまりざきそう)
社長 高橋 宮倫子さん 常務取締役 佐藤 洋子さん 

順調に展開しているように見える事業系生ごみの分別回収だが、取り組みの当初は決してそうではなかった。事業者として先陣を切って分別回収に参画したのは南三陸町北部の歌津地区(旧歌津町)の旅館、「ニュー泊埼荘」である。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。写真はパティスリークリコのスタッフと共に移った写真。)


絶対にこの取り組みを集客につなげるんだという情熱がありました。


(写真:泊崎荘従業員の方との写真)

(写真:泊崎荘従業員の方との写真)

洋子さん:「生ごみ分別への参加について、(経営トップの)父を説得するのに半年ほどかかりましたね。わざわざ分別して何になるんだ、分別してお客さんが増えるんですか?というスタンスでした。」

常務取締役を務める姉の佐藤洋子(ひろこ)さんと若女将を務める妹の高橋宮倫子(くりこ)さんは、経営業務の大部分を父親から引き継ぎ、年間2万人の利用客が訪れる旅館を姉妹で切り盛りしている。姉の洋子さんが、当時の様子を振り返りながら分別に参加した心境と動機を語った。

洋子さん:「当初こそ父はそんなスタンスでしたが、私は絶対にこの取り組みを集客につなげるんだという情熱がありました。本当に良い取り組みなら絶対に集客にもつながると信じているし、つなげてみせる! 今でもそう思っています。」

震災からの復興が進む中、同町には全国から多くの人が研修や視察に訪れている。ニュー泊埼荘は、そうした域外からの来訪者を温かくもてなしていた。その営みを通じて、自らも持続可能な地域社会の取り組みに加わり、その発信拠点を目指そうとする想いがあった。


洋子さん:「震災の後、私は色んな事が不安で問題だと思っていて、でもどうしていいか分からなくて何もできていなかったのに、未来に向けて動こうとする人たちがいたんです。捨てられていた生ごみが土に還るBIOシステムに感動し、これを応援しなくてどうするんだと。この人たちを全力で応援する、それ以外の選択肢はなかったんです。」


妹の宮倫子さんも、旅館経営者として抱いてきた想いを次のように語る。


宮倫子さん:「こういう旅館業って、ハード面での投資がけっこう多いんですね。施設の改修を定期的にしなくちゃならないし、一巡するとまた次の改修という感じで、わりと持続可能とはいえない商売なんですよ。」

では持続可能な宿とはどうあるべきかを模索していたときに、町の「エコタウンへの挑戦」と出会った。震災翌年の当時、町では木質ペレット利用の実証実験が行われており、ペレットストーブの実証モニターとなる家庭や事業者を戸別訪問で募集していた。その際、ニュー泊埼荘が事業者として率先的に実証モニターを引き受けたのである。

町長でさえも、当初は「こんな非常時にエコタウンへの挑戦って、なに言ってんの?」と疑問を呈した事業だ。海に面した高台にあるニュー泊埼荘は津波の直接的な被害こそ受けなかったものの、かつての市街地にはまだ瓦礫の山と津波の爪痕が生々しく残されていた。そのような状況の中で「暖かな炎が見えて心が癒されるペレットストーブで持続可能な社会を目指しませんか」といった趣旨のモニター募集に応えてくれるような事業者は、当然ながら決して多くはなかった。

しかしモニターを引き受けた結果、ロビーに設置されたペレットストーブを非常に高く評価したのは経営トップの父親だった。モニター終了後に買い取って活用しただけでなく、さらに二台のペレットストーブを自費購入して増設したのである。

その後、循環型社会の構築に向けた構想にも共鳴した姉妹は多方面での連携を果たしてきた。入谷地区の農家が新たな特産物化を目指して栽培している薬草のトウキを大浴場での薬湯サービスに利用し、さらに館内のケーキ店でトウキ葉を用いたロールケーキを開発するなど、様々な産物振興にも取り組んできたのである。ケーキ店のパティシエも務める宮倫子さんが、その中で生まれた成果を語った。


(写真:「パティスリークリコ」のトウキ葉使用商品)

(写真:「パティスリークリコ」のトウキ葉使用商品)

宮倫子さん:「こうした活動を進める中で『地域の自然と共生する持続可能な宿を目指す』という方針がだんだん生まれてきたんですね。その具体的な手法のひとつが、生ごみ分別でBIOの資源循環事業に参画することだったんですよ。ところが…」

事業者として先陣を切って生ごみの分別回収に参画をしようとしたとき、父親から思わぬ「待った」が入ってしまった。当然、時給で働く従業員の労働コストなどを鑑みての判断になるが、父親はなかなか首を縦に振らなかったそうだ。しかし、その難関の扉が開けたのは意外なことが理由だった。

洋子さん:「なんとか認めてもらえたきっかけは、トウキ風呂に入ったお客さまからの『すごくよかったよ』という賞賛の声を、父が直接聞いたことからなんですよ。」

洋子さんが身を乗り出して嬉しそうに語った。トウキの根は薬用入浴剤としても効果があり、冷え性の改善・腰痛の緩和・新陳代謝の促進・リラックス効果などが知られている。宿泊者からの賞賛を受けた薬湯のトウキは、生ごみ分別から生まれた液肥で栽培されていたのである。

「いのちめぐる薬湯サービス」を喜ぶ利用客の声。これが、頑なだった父親の心を変えた。未来を担う娘たちの「いのちめぐるまちづくり」への参画意志をようやく認めた父親は、「お前たちの情熱に負けたよ」と笑ったそうだ。 

「お金には代えられない、関係性の豊かさが広がっています。」


祖父の代までは漁師と田畑も営んでいたが、父の代からは旅館業一筋だった。新たな経営方針として「地域の自然と共生する旅館」を目指す姉妹は、循環型社会を担う宿泊業のあり方を模索している。今後のさらなる展望を洋子さんが語った。


洋子さん:「歌津地区は津波の後に耕作放棄された田畑が多いんです。だからシルバー要員で畑をやってもらいながら再雇用の道を作るようなことはできないかな、と考えたりしています。循環型の作物を作ってもらい、安全安心の食材を宿で提供すれば、お客様が命や資源の循環の一員になることができます。宿の経営でもそこまで取り組めたらいいな、という夢がありますね。」

確かに、それが実現すれば地域ブランドを牽引するリーダーシップになると同時に、旅館自体が大きな価値発信力を備えた地域のPR拠点になるだろう。いま、若女将の宮倫子さんは自ら耕した畑に液肥を施し、サラダ菜やブロッコリー、アスパラやダイコン、ジャガイモなど十数種類もの作物を育てている。既に一部の野菜は宿泊客に供するサラダの素材になっているという。分別回収だけでなく、「いのちのめぐりのおもてなし」を提供するサービス事業者としても見事に先陣を切った形だ。

一方で、実際に事業者として分別回収を始めたことで得られた成果はまったく予想外のものだったという。洋子さんがその「想定外の効果」について次のように語った。

洋子さん:「分別を始めてからの一番大きな成果は、人と人のつながりができて、それがどんどん広がっていることです。ここ(歌津地区)は海辺の町で、入谷地区のような山や里の地域との縁はあまりありませんでした。同じ町に住んでいるのに、さほど交流が無かったんですね。でも、分別から始まる循環のしくみを通じて、里の農家や山の林業家の方とのご縁ができました。これは人生の宝物です。お金に代えられない関係性の豊かさが広がっている実感がありますね。」

そうした「関係性の広がり」の効果とは、具体的にどのようなものだろうか。


(写真:ニュー泊崎荘の社長を務める高橋宮倫子さん。)

(写真:ニュー泊崎荘の社長を務める高橋宮倫子さん。)

宮倫子さん:「いま私、入谷の農家から分けてもらった竹材で施設の目隠しの棚を作っているところなんですけどね。」野良作業も大工仕事も自らこなしている宮倫子さんが説明してくれた。

宮倫子さん:「歌津には宿が7軒あったんですが、震災前は宿同士の連携がほとんどなかったんです。でも、分別回収を通じてのつながりができて、入谷の『いりやど』の研修センターで竹細工をしたり、タラの芽の収穫体験のプランなどを提供することができるようになりました。それまでは田束山( 歌津地区にある南三陸町の最高峰)のツアーぐらいだったんですけど、他の地域や他の宿との連携で、お客様に喜んでもらえるサービスや情報の幅がすごく広がったんですよ。」 

BIO見学をしたお客さんが、さんさん商店街( 被災した地域の復興商店街)の直売店で液肥を使った野菜やお米を喜んで買うなど、良い影響がどんどん広がっているという。森・里・海の地域間で交流が深まれば、異なる視点で地域の価値や役割の意義を再発見することにもつながるだろう。それは利用客へのサービスの拡大や深化にも結び付いていく。宮倫子さんが感慨深げに語った。

宮倫子さん:「バケツ一杯からはじめたことが、ここまで色々なつながりを作ってくれるとは思いませんでした。分別からの波及効果は、なんといいますか…計り知れないですね。」

この「つながり」の波及効果は、「よし、やってみよう」という動機づけと、「未来を自分の手で変えられるんだ」という発見が、人のつながりを介して地域社会に広がっていることを表わしている。「これができたなら、あれもできるかも」、「あの人ががんばっているなら、自分にもできるはず」。そうした連鎖的な意識変革の好循環が生み出されている。

ニュー泊埼荘で実際の分別作業に関わる中居さんや厨房の従業員も、BIOを見学した際に、選別ラインで生ごみを丁寧にチェックしながら異物を選り分けているスタッフの姿を見て、明確に意識が変わったという。中居さんの一人がこう語った。


(写真:ニュー泊崎荘による南三陸BIO視察の様子。)

(写真:ニュー泊崎荘による南三陸BIO視察の様子。)

中居さん:「それまでは、食事の片付けの時の分別作業も何となく適当にやっていたな、と思いましたね。それに、液肥が誰かの役に立っている資源であることを実感して、ちゃんとやらなきゃ、という使命感を持つようになりました。」

宿の経営層から現場の中居さんたちまでが、分別回収からはじまる「ひとのつながり」に想いをはせ、使命感を抱いている。持続可能な社会に向けたバケツ一杯からの取り組みが、まさに革命ともいうべき価値転換を生み出していた。


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無料電子書籍「バケツ一杯からの革命」


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財源不足・過疎・コミュニティ崩壊など、日本の地域は様々な課題に直面しています。本書は、これらの課題を事業でどう解決すべきかと、持続可能な社会のあり方に関する構想を描いた書籍です。
地方創生や地域活性化に関わる官庁・自治体・企業経営者、住民の方々にとってのヒントが満載です。ぜひご覧ください。


動画 いのちめぐる~分別のこと~



プロフィール


高橋 宮倫子さん

高橋 宮倫子(たかはし くりこ)さん
1984年生まれ。南三陸町歌津出身・在住。
宮城調理製菓専門学校卒業。
仙台国際ホテルで修業後、(株)パティスリークリコのパティシエールとなる。平成28年度、(株)ニュー泊埼荘3代目の代表取締役社長就任。


佐藤 洋子さん

佐藤 洋子(さとう ひろこ)さん
1980年生まれ。南三陸町歌津出身・在住。
平成28年度、(株)パティスリークリコ 代表取締役社長就任。
(株)ニュー泊埼荘 常務取締役。


資源循環の基盤づくり


バイオガスプラント 南三陸BIO


南三陸町バイオマス産業都市構想


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