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「住民窓口担当」の奮戦記 ~環境対策課の視点~

資源循環への基盤作り南三陸南三陸BIOバイオマス産業都市構想

宮城県本吉郡南三陸町役場 環境対策課

バイオガスプラントの事業化方針が決まってからは、生ごみ分別の当事者となる住民や事業者との直接窓口となる環境対策課が対応に追われることになった。当時の環境対策課に状況をうかがった。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。写真は南三陸BIOに生ごみ回収バケツが運び込まれる様子。)

場所を網羅して慣れるまでが大変でしたね

佐藤さん:「プラントの稼働後の対応よりも、立ち上げの前段階の住民対応や、収集業者への委託業務の整理などが一番大変でしたね。まず必要だったのが、収集体制の変更です。各地区の収集日を週何回にするかとか、『生ごみの日』を別途に設けるのか、といった枠組みの整理ですね。」

住民や収集業者の意見を集約した結果、町内を二つの地区に分けて実施されていた通常の可燃ごみと併せ、同じ曜日に生ごみも収集することになった。週2回ずつ、それぞれ月・木と火・金で収集する体制だ。


(写真:ごみステーションに配置されたバケツ)

(写真:ごみステーションに配置されたバケツ)

佐藤さん:「これまでは祝祭日は収集が休みだったのですが、生ごみを溜めておけないだろうということで、祝祭日に関係なく曜日で収集することにしました。」

次は収集業者の作業分担の調整だ。これまで3事業者で「可燃ごみ」、「不燃ごみ」、「資源ごみ」の回収を請け負っていた状況に、「生ごみ」が新たに加わることになる。

佐藤さん:「結局、3事業者のうちの1事業者を生ごみ収集に特化して受け持ってもらう体制としました。担当になった事業者も大変だったと思いますよ。やってみないとわからないし、作業量の試算もやりようがない状況でしたから。」


生ごみ収集専用のバケツ回収に加え、洗浄後の空バケツを集積所に再配布する作業もある。回収のみに比べて2倍の人繰りになることへの調整も必要だった。


佐藤さん:「ですので人手の融通が付きやすいように、空バケツの配付は収集日の前日までのいつでもいいことにしました。火曜日が収集日の場合、前週の回収日の金曜から前日の月曜までに置けばいいという具合です。1事業者が町内全ての集積所を回るので、場所を網羅して慣れるまでが大変でしたね。」

9月から2カ月近く、毎晩の説明会でした

さらに大変だったのが住民への説明会である。2014(平成26)年の春に南三陸町のバイオマス産業都市構想が政府7府省による選定委員会で認定され、BIOの導入が決定した。もはや後戻りはできない状況となり、町役場は同年の秋から町内の各地区68ヶ所への説明会を2班に分かれて始めた。実際の分別収集は1年後からであったが、町のバイオマス産業都市構想が認定されたニュースは地元メディアでも大きく報道され、生ごみの分別を担う住民への情報提供と理解普及は急務であった。

佐藤さん:「9月から2カ月近く、毎晩の説明会でした。行政区(町が定めた住民自治組織)に加え、仮設住宅の各自治会でも説明会を開きました。前向きに理解してくれる方が多かったんですが、家庭で生ごみを分別しておく際の水切りバケツ(二重構造で内部容器は水が切れるメッシュ底のもの。希望する各戸に1個ずつ無償提供された)は、もっと大きいのがほしいという人も結構いましたね。」

住民からの質問項目をまとめた資料を見ると、確かに水切りバケツの見本を見てサイズを気にする声が多く、また臭いの心配から週2回の回収日の間隔を均等にしてほしいといった声も多かった。このため、週2回の可燃ごみ回収日が水・金で「中1日」と「中4日」の不均等な間隔だった地域では、収集日を「中3日以下」に均等化するなど、細かな回収体制の見直しと調整が図られた。

一方で生ごみの分別回収そのものには批判的な意見はほとんどなく、逆に液肥の利活用に関しての質問が多くの地区で聞かれた。


「Q:一世帯あたりもらえる液肥の量は決まっているの?」→「A:設置されたタンクからならいくらでもどうぞ! 足りなければ施設に直接取りに来てもらってもOKです。」といった具合のやりとりが繰り返された。


そうしていよいよ迎えた収集開始の初日、心配で回収バケツがちゃんと集積所に配置されているかの確認に回ったそうだ。出す方も初めは疑心暗鬼で全然出してもらえなくて空っぽ同然の回収バケツがあったり、逆に想像もしないような異物が混入していたり(総入れ歯が混入していたこともあった)、という状況だった。


(写真:ゴミステーションでの分別)

(写真:ゴミステーションでの分別)

佐藤さん:「分別に迷うと問い合わせが来るんですが、卵の殻やカニ殻はNGというのはそんなに迷わないにしても、ピーマンの種はOK、カボチャの種はNG、スイカの種は当初NGだったんですが、だんだん、まあスイカの種ぐらいならOKということになったりと、なかなかの大混乱でしたね。」

やがて「人が口に入れて体内で消化できる素材ならOK、できないものはNG」という判断基準が集積所を中心に口コミで浸透していくと、異物の混入率は目覚ましい勢いで下がっていった。

佐藤さん:「半年たって、ようやく落ち着いてきた感じでしたね。こちらも当初は経験も資料もない状況でしたから、今ならもっと細かく充実した説明会ができるので呼んでくださいと呼びかけています。住民説明会も1回きりではなく、年に1回ぐらいのペースで地域を回るようにしていくべきなんでしょうね。住民の方も実際にやってみたうえでの楽な出し方の工夫やアイデアを出してくれています。」

コミュニティ機能と分別率は相関する

興味深いのは、各集積所の分別率の違いが、その地域のコミュニティ機能の活性の度合いと連動している傾向があるということだ。古くから居住し続けている住民が多い地域の集積所では分別による回収率が高く、異物の混入率も低い一方で、仮設住宅の集積所では逆の傾向が生じるケースが多いという。

佐藤さん:「でも、それは無理もない話なんです。仮設住宅は被災した地域ごとに入居しているわけじゃないから、もともとの居住地のコミュニティ機能が失われています。だから住民同士のコミュニケーションが醸成されにくいし、リーダー役も生まれにくいですね。」


液肥タンクから汲み出し

(写真:液肥タンクから汲み出し)

分別回収の説明会は、町外に避難した住民のいる近隣自治体の仮設住宅の自治会でも実施されている。いずれ町に戻ってきたときにごみの出し方で迷わないように、という観点からだ。津波で被災した住宅地全ての高台移転という難事業に目途がつき、町外の仮設住宅で暮らす被災者が故郷へ戻れる日も近い。

佐藤さん:「震災から5年が経過したといっても、仮設住宅はやはり仮の住まいですし、お互いの生活音や子供の声も近隣への迷惑を気にし合う環境です。やはり、これからずっと住めるという意識がないと、共同体としての住民コミュニティも育ちにくいと思います。恒久的なコミュニティであれば立ち話もしやすいし、リーダー役も生まれやすくなると思いますね。」

分別率がコミュニティの醸成と密接に関わっている背景には、集積所が井戸端会議の場となり、分別回収率や異物混入率にプラスの作用が生まれやすくなることもあるそうだ。今後の新たな展開の中で期待されているのは、回収された生ごみ由来の液肥タンクの設置によるコミュニティの醸成効果だ。

佐藤さん:「いま、住民向けの液肥タンクが町内6カ所で設置されています。希望があれば増設していく方針ですが、ごみの集積所に置くのはスペース的に困難です。だから各地域の集会所ごとに設置するのがいいですね。団地で共同菜園があれば使われやすいですし、各家庭の使用でも、どんな使い方をするのかで情報交換の場になります。多くの人に共同で液肥タンクを使ってもらって、コミュニティの輪を広げてもらいたいですね。」

暗中模索で自治体が挑んだ生ごみの分別回収に、初めは戸惑いつつも参加を始めた住民たち。両者の取り組みと試行錯誤が、未来に向けた新たなコミュニティの姿を生み出そうとしている。


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