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変化に対応することで、新たな産業振興のビジネスチャンスも生まれると思ったんです。

資源循環への基盤作り南三陸南三陸BIO農業バイオマス産業都市構想

有限会社「山藤運輸」代表取締役 佐藤 克哉氏

南三陸の資源循環事業における「いのちのめぐり」のバトンリレーは生ごみの分別回収からはじまり、農地への液肥の散布作業によって一巡する。その重要なアンカー役を務めるのが町内の運送会社「山藤運輸」だ。廃棄物の運搬から建設現場での土砂運搬、さらには引っ越しサービスまで幅広く手掛ける物流のプロフェッショナルである。
※(本記事は2017年12月8日に発行した電子書籍「バケツ一杯からの革命」からの抜粋記事です。写真は合同会社MMRの代表社員の御三方。左から山内 利也さん、佐藤 太一さん、佐藤 克哉さん)


ごみ運搬の仕事は減るだろうけど、新たに液肥を地域内で運んで撒く仕事ができます。

佐藤さん:「そもそもは、液肥の本格利用に向けた散布実証の際に、地元の協働事業者が必要ということでアミタさんから問い合わせがあったんですよ。うちの事業の立ち位置はもちろんご存じでしたから、担当の方はえらく恐縮しながら説明されていましたね。」

代表取締役の佐藤克哉さんがさも可笑しそうに語った。というのは、そもそも同社は、南三陸町内の可燃ごみを焼却のために気仙沼市へ運ぶ仕事を請け負っていた事業者だからだ。可燃ごみの重量を引き上げている生ごみが町内で資源循環されるということは、言い換えれば同社の可燃ごみ運搬の仕事が減ることを意味する。いわば自社稼業の利益に相反する事業にあえて参画した理由をうかがった。

佐藤さん:「ごみ運搬の仕事は減るだろうけど、新たに液肥を地域内で運んで撒く仕事ができます。変化に対応するのが経営です。それより町が進めているバイオマス産業都市構想の話を聞いて、すごく関心を持ったんですよ。津波の被災農地を復旧しても耕作する人がいない問題があるので、単に液肥を撒くだけでなく、地域主体で農業生産法人を立ち上げて新しい産業を起こす、といった全体構想の話を聞いて、そこに食いついてしまいました(笑)。」

先代社長から経営を引き継いで間もない佐藤さんは町の有力な若手リーダーの一人であり、町が掲げるバイオマス産業都市構想の重要な推進役を果たしている。

佐藤さんがとくに関心を持ったのが「自立分散型社会システムの構築」という町の将来ビジョンだ。域内で循環資源を運搬し、利用者に届ける物流業のイメージが湧いたという。


佐藤さん:「運送業、とくに廃棄物運搬の仕事はエンドユーザーに接する機会が少ないんですよ。そうすると“やりがい”をなかなか感じられないところもあるんです。でも、あの震災で被災した人たちに救援物資を運んだ時は、ものすごくやりがいを感じることができました。」 

同時に、寒さの中で暖を取れずに亡くなっていく人が相次いだことから、自立型のライフラインや、エネルギー自給力を確保する町の将来像にも強く共鳴したという。

佐藤さん:「そして人と人のつながりの大切さですね。入谷地区の人たちが備蓄米の炊き出しをしてくれなければ、食事も暖も何もなかった状況でしたので。ですから、『自立分散型社会システムの構築』という変化に対応することで、新たな産業振興のビジネスチャンスも生まれると思ったんです。」

震災直後の被災者への救援対応が一区切りした後、エンドユーザーとの接点が少ない運送業の経営にもやもやとした想いを抱え、気仙沼市が主催する人材育成道場(経営未来塾)で「自分はラーメン屋をやりたいんです! 」と切り出したこともあったそうだ。

佐藤さん:「では、君は今の山藤運輸の経営者という立場を辞められるの? とメンター(助言者)に問われて、辞められないです、と答えたら、じゃあ単なる気の迷いだね、と看破されてしまったりね(笑)。そんなときにアミタさんに出会って、町のバイオマス産業都市構想のことを知ったわけです。」


豊かな関係性と、やりがいを創り出すことができています。


(写真:賑やかなデコレーションを施した液肥散布車での作業)

(写真:賑やかなデコレーションを施した液肥散布車での作業)

バイオガスプラントの導入に向け、農地への散布実験を始めた当初は、「何を撒いてるんだ!」といぶかる周辺の農家もいたという。ただ散布するだけでなく、資源循環事業のPRが必要だと考えた佐藤さんは、自社購入した液肥散布車のタンクに資源循環キャラクターの4コマストーリーで資源循環事業を表わすデコレーションラッピングを施した。

佐藤さん:「元ネタは工藤真弓さんの紙芝居です。液肥の散布作業と同時に普及啓発のデモカーになるわけです。町の誇りになるようなデコレーションをしたいと思ったんですよ。」

異業種の有志事業者と共に学習用の農園を造成・寄贈した小学校の食育教育の現場でも、このデモカー散布車は活躍した。工藤さんの紙芝居で資源循環の学習を受けた後、楽しい絵の描かれたデモカー散布車の登場に子供たちは大喜びだ。散布作業担当のスタッフは戦隊ヒーローにイメージを重ねた「散布マン」を自称して資源循環事業のPRに務めている。廃棄物運搬業者が子供たちの憧れのヒーローとなり、「将来こういう仕事をしたい」と言わしめる。これは、まさに未来社会の姿だ。


(写真:戸倉小学校の学校農園での液肥散布後の様子。)

(写真:戸倉小学校の学校農園での液肥散布後の様子。)

佐藤さん:「子供たちから『すごい、かっこいい!』と言ってもらえ、農家からは笑顔で『ありがとう』と言ってもらえる。豊かな関係性と、やりがいを創り出すことができています。うちでは誇りをもって楽しく働けるよ、という求人アピールもできるので、ドライバー不足の解消にもつながっていますね。」

さらに、液肥を撒いた農地での農作業補助サービスという新たな事業展開にも着手している。有機物がメタン発酵で無機化された液肥は即効性が見込める肥料だが、同時に主要な肥効成分(アンモニア態窒素)が揮発しやすい性状のため、十分な効果を得るには散布後の三日以内にトラクターで耕起して土中にすき込む必要がある。しかし農家の多くは兼業農家で、作業を請け負う専業農家も人手不足でスケジュール調整が厳しいという状況があった。そこでトラクターを自社購入し、農作業代行の担い手という新たな事業に着手したのだ。生ごみの分別回収と液肥散布から生まれたイノベーションである。

佐藤さん:「繁忙期は農家が所有するトラクターで作業代行するサービス提供もしています。今後は、めぐりんシール付きの循環ブランド農産物の運送サービスなども展開していきたいですね。」

次々に新規事業の展開を図る佐藤さんの構想は、バイオガス事業に係る分野に留まらない。町内の林業や土木建設業の若手リーダーたちと共に資源循環を担う新たな合同会社MMR(南三陸マーベラス・リソース=「素晴らしい資源」の略)を立ち上げ、域内の森林で未活用となっている木質バイオマスをペレット燃料に加工する事業も視野に入れている。 

佐藤さん:「実証実験が行われたペレット燃料の利用促進事業を受け継ぐ形で、病院や役場などに木質ペレット燃料を納品しています。今のところ、県内のペレット工場で製造されたものを購入していますが、現状の2倍のペレット需要があれば町内にペレット工場を建てても採算性が見込めます。あるいは、初期投資額が少ない小規模な工場を立ち上げて地域で資源を回し、不足分を域外から購入するという方法も考えています。」

眠っている地域資源を掘り起し、掛け合わせていく。その核になるのがBIOというインフラです。

持続可能な社会の構築に向け、国をあげて取り組まれているバイオマス産業都市構想の実現には、こうした熱意ある地域事業者たちの参画が不可欠だ。佐藤さんは地域イノベーションへの想いを次のように語る。

佐藤さん:「どこの地域でも課題は似通っていて、必要なのは新たな雇用と価値の創出です。眠っている地域資源を掘り起し、掛け合わせていく。その核になるのがBIOというインフラです。我々は液肥の運搬や散布を通じて農業の振興を図れるし、同じつながりで木質ペレットを通じて山を豊かに管理していくことができる。震災という特殊な体験を共有しているということも確かにありますが、あのとき食料や燃料で困らなかったのは里山に抱かれた入谷地区の農村集落のおかげでした。私たちは、そこで暮らす人々とのつながりによって救われたんです。そうした人と人のつながりを増幅させることに、新たな産業の価値があるんだと思いますね。」

眠っている地域資源から価値を創造し、人々が関係性を深める中で新たな産業振興を生み出していく。その持続可能な未来社会の姿を、地域の事業者たちは明確に認識していた。


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財源不足・過疎・コミュニティ崩壊など、日本の地域は様々な課題に直面しています。本書は、これらの課題を事業でどう解決すべきかと、持続可能な社会のあり方に関する構想を描いた書籍です。
地方創生や地域活性化に関わる官庁・自治体・企業経営者、住民の方々にとってのヒントが満載です。ぜひご覧ください。


動画 いのちめぐる〜液体肥料のこと〜



プロフィール


佐藤 克哉(さとう かつや)さん
有限会社「山藤運輸」代表取締役


宮城県南三陸町出⾝。東京で営業、設計、⽣産管理業務の経験を経て、2009年に帰郷し同社に⼊社。ドライバーとして現場から経験を積み、2017年4⽉に代表取締役就任。
合同会社MMR(ミナミサンリク・マーベラス・リソース)、(株)南三陸さんさんマルシェの役員を兼務。2016~2017年南三陸志津川ライオンズクラブ会⻑。


資源循環の基盤づくり


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